最終更新日 2026年2月27日 by nfobiz

初詣に地元の神社を訪れると、境内に「憲法改正」を求める幟が立っていた──そんな経験をしたことがある方は少なくないはずです。あるいは、「神道政治連盟」「日本会議」といった名前をニュースで目にしたことはあるでしょうか。神社といえば、多くの人にとって祈願や初詣、七五三といった日常の信仰と結びついた身近な場所です。しかし、その背後には「政治」と深く絡み合う構造があります。

政治部記者として20年間、政治と宗教・文化団体の関係を取材し続けてきた私、宮下渉が、今回は「神社本庁」「神道政治連盟(神政連)」「日本会議」という3つの組織の実態と、それぞれの関係を、できるだけ分かりやすく解説します。「なんとなく聞いたことはあるけれど、どうつながっているのかよく分からない」という方も、この記事を読み終える頃には全体像が見えてくるはずです。

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神社本庁とは何か──全国7万8千社を束ねる組織

「庁」と名がつくが官公庁ではない

神社本庁という名称を聞くと、多くの人が国の機関だと思い込みます。ところが実際には、文部科学大臣が所轄する包括宗教法人であり、官公庁とはまったく別物です。東京都渋谷区代々木に本部を置き、全国47都道府県に「神社庁」という地方組織を持っています。

神社本庁は、全国に約8万社ある神社のうち、主要なものを中心に7万8千社以上が加盟する、神道系としては日本最大の宗教団体です。加盟各神社からの上納金を主な財源としており、最近では年間50億円規模の予算で運営されています。

神社本庁の成り立ちと歴史的背景

神社本庁が生まれたのは、1946年(昭和21年)2月3日のことです。第二次世界大戦の終結後、連合国軍総司令部(GHQ)は1945年12月15日に「神道指令」を発し、神社を国家から切り離すよう命じました。それまで国家機関として神社を管轄していた神祇院は解体されることになります。

この状況に対応するため、当時の民間神社関係団体だった「皇典講究所」「大日本神祇会」「神宮奉斎会」の3団体が結集し、新たに設立したのが神社本庁です。一言でいえば、「戦後の占領政策の下で、神社界がバラバラにならないように作った緊急避難的な団体」といえます。

神社本庁の目的は、伊勢神宮を本宗(頂点)と仰ぎながら、傘下の神社の管理・指導、神社神道の宣揚、神職(神主)の養成などを担うことにあります。神職は「浄階・明階・正階・権正階・直階」という5つの階級に分けられて管理されており、この点では他の宗教法人と同様の組織構造を持っています。

神道政治連盟(神政連)とは何か──神社界が作った政治団体

神政連の設立と目的

神道政治連盟(略称・神政連)は、1969年11月8日に神社本庁を母体として設立されました。神社本庁の公式サイトにも「関係団体」の一つとして明記されており、「神道精神を国政の基礎に」を合言葉にして結成された団体です。

神政連の中央本部は、神社本庁の敷地内(東京都渋谷区代々木)に置かれています。「組織的には別団体」でありながら、物理的には同じ建物の中にある──この構造が、両者の一体性を象徴しています。

神政連が掲げる主な活動方針は以下のとおりです。

  • 万世一系の皇統護持と皇室の尊厳護持
  • 憲法改正(新憲法の制定)
  • 靖国神社への国家儀礼確立
  • 選択的夫婦別姓制度の導入反対
  • 教育の正常化と道徳教育の推進

特定の宗教教義を布教することが目的ではなく、あくまでこれらの「政策課題」を実現するための政治活動が中心です。かつては政治団体として登録されていましたが、1995年の政治資金規正法の改正に伴い、現在は任意団体として活動しています。

神政連国会議員懇談会の存在

神政連の活動を政治の場から支える組織として、1970年5月11日に「神道政治連盟国会議員懇談会」(神政連国会議員懇)が結成されました。神政連の理念に賛同する国会議員によって構成される議員連盟です。

現在の会員数は2025年12月時点で201名。数名の例外を除き、全員が自由民主党に所属しています。

神政連国会議員懇は、単なる「勉強会」にとどまらず、選挙における実質的な推薦・応援活動も行っています。推薦を受ける際には「選択的夫婦別姓に反対する」などの政策課題に同意する「公約書」の提出が求められるケースもあり、候補者に一定の踏み絵を踏ませる仕組みになっています。

日本会議とは何か──日本最大の保守系国民運動団体

日本会議の設立と前身団体

日本会議は1997年5月30日に設立されました。その前身は、「日本を守る会」(1974年結成)と「日本を守る国民会議」(1981年結成)という2つの団体です。

「日本を守る会」は、臨済宗円覚寺派管長の朝比奈宗源の呼びかけで、神社本庁や生長の家などの神道・仏教系宗教団体が中心となって結成されました。一方の「日本を守る国民会議」は、元号法制化運動を推進した保守系の学者・文化人・財界人が中心でした。この2団体が統合し、日本会議が誕生したのです。

2016年時点での会員数は約3万8千名。全47都道府県に本部を、241の市区町村に支部を持ち、「草の根保守の国民運動ネットワーク」を自称します。

日本会議の主な活動と政策主張

日本会議が公式に掲げる活動方針は多岐にわたります。

  • 憲法改正の早期実現(改憲のための署名活動や世論形成)
  • 皇室の伝統・男系維持(女系天皇・女性宮家の創設反対)
  • 教育正常化(歴史教科書の見直し、道徳教育の推進)
  • 選択的夫婦別姓の反対
  • 靖国神社への首相参拝推進
  • 拉致被害者救出運動
  • 防衛力強化の世論喚起

日本会議は神政連と異なり、宗教団体・経済団体・文化団体などを横断する「超宗教・超党派の保守民間団体」として位置づけられています。ただし、実態としては神社本庁を中核とする宗教系団体との結びつきが強く、両者の掲げる理念に明確な違いはほとんどありません。

3者はどうつながっているのか──人脈・組織・政策の網

役員の兼職という「橋」

神社本庁・神政連・日本会議の3者の関係を最もわかりやすく示すのが、役員の兼職です。

神社本庁の総長(田中恒清氏)は日本会議の副会長を兼任し、神社本庁の統理(鷹司尚武氏)は日本会議の顧問を務めています。宗教学者の塚田穂高氏の調査では、日本会議の代表委員41名のうち17名が宗教団体・修養団体関係者であり、そのなかに神社本庁関係者が含まれていることも確認されています。

神政連についても同様で、神政連の役員の多くが日本会議の役員・幹部を兼職しています。これは「別々の組織が連携している」というより、「同じ人たちが複数の組織を掛け持ちして動かしている」といったほうが実態に近い状況です。

同じ政策課題に向かう議連の重複

神政連には「神道政治連盟国会議員懇談会」、日本会議には「日本会議国会議員懇談会」と、それぞれ別々の議員連盟が存在します。しかし、参加議員の顔ぶれには大きな重複があります。

第2次安倍内閣発足(2012年)以降、歴代内閣の閣僚の大半がこの2つの議連のどちらか、あるいは両方に所属してきました。第3次安倍内閣では、公明党出身の1名を除く閣僚19名が神政連国会議員懇のメンバーでした。

神社が「運動の現場」になるとき

3者の連携が最も可視化されるのが、神社の境内での政治活動です。2015年前後から、全国各地の神社で憲法改正を求める署名活動が展開されるようになりました。これは神社本庁と日本会議が連携して推進した「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(1000万人ネットワーク)によるものです。

地域の宮司が氏子に署名への協力を呼びかけ、氏子総代が各戸を回って署名を集めるという形式で進められたこの運動は、神社のネットワークを「草の根の政治運動の担い手」として機能させる実践例でした。

神社本庁の公式サイトでも、神政連を「神道精神を国政の基礎にを合言葉にして結成された神社界を母体とした団体」と紹介しており、両者の関係は公式に認められたものです。

3者の関係を整理する──役割分担の構造

3者の関係を整理すると、以下のような「役割分担」の構造が浮かび上がります。

組織名性格主な役割政治との接点
神社本庁包括宗教法人全国神社の管理・神職の養成神政連・日本会議への人材・組織提供
神道政治連盟(神政連)任意団体(ロビー団体)選挙応援・政策推薦・議員連盟の運営国会議員懇談会を通じた議員への働きかけ
日本会議任意団体(国民運動団体)草の根署名活動・世論形成・政策提言国会議員懇談会を通じた議員への働きかけ

神社本庁が「基盤」であり、神政連が「永田町への窓口(ロビー機能)」、日本会議が「世論形成のエンジン(国民運動機能)」という関係性です。この3者が人脈・理念・政策課題を共有しながら有機的に連動しているのが現状です。

政治的影響力は「実際のところ」どのくらいか

安倍政権との蜜月と影響力のピーク

神政連・日本会議の影響力が最も取り沙汰されたのは、2012年から続いた安倍晋三政権の時代です。安倍元首相は神政連国会議員懇談会の会長を長年務めており、神政連会長(打田文博氏)との関係の深さは広く知られていました。

この時期の閣僚の多くが両議連のメンバーだったことは前述のとおりです。しかし、政治評論家や研究者の間では、「閣僚が議連に名を連ねるのは、神政連が集める数百〜数千票の選挙支援が目的であり、日本会議に操られているというより、票が欲しいから参加しているのだ」という見方も根強くあります。

実際の政策への影響力については、見方が分かれています。「元号法制化(1979年)」などの成果はあったものの、その後の時代においては「政治に大した影響力があるわけではない」という神社本庁・神政連関係者の証言もあります。

安倍元首相暗殺後の変化と現在

2022年7月に安倍元首相が銃撃されて亡くなったことは、神政連にとって大きな痛手となりました。議連のシンボル的な存在を失い、政治的な発信力は以前より低下したとの見方が、関係者の間でも広がっています。

神社本庁自体も、近年は内部問題が相次いでいます。総長選任をめぐる内紛が長期化し、2024年には鶴岡八幡宮が神社本庁からの離脱を通知するという異例の事態も起きました。

nippon.comの解説によると、神社本庁には年間50億円規模の予算があり、加盟神社の神職約2万1千人を5つの階級で管理しています。ただ、神社本庁内部でも「このような組織が本当に必要なのか」と廃止論を口にする神主も存在しており、組織の権威が揺らいでいる面もあります。

現在(2026年2月時点)の神政連国会議員懇談会の会員数は201名と、ピーク時の300名超から減少しています。安倍政権という強力な後ろ盾を失ったことで、3者連合の求心力は以前より低下しつつあるというのが、多くの研究者・評論家の現状認識です。

まとめ

神社本庁・神政連・日本会議の3者の関係を整理すると、こうなります。

  • 神社本庁(1946年設立)が「宗教・組織の基盤」
  • 神政連(1969年設立)が「選挙・ロビー活動の窓口」
  • 日本会議(1997年設立)が「草の根運動・世論形成の担い手」

3者は役員の兼職・共通の政策課題・議員連盟の重複などを通じて、密接につながっています。その影響力は安倍政権時代に最大化し、現在は一定程度低下しつつあるものの、国会議員200名以上を組織する神政連国会議員懇談会は依然として存在感を持っています。

重要なのは、こうした構造を「陰謀」として見るのではなく、「宗教団体や市民団体が政治に働きかけるという、民主主義社会における一つのプロセス」として冷静に理解することです。その上で、特定の団体の政治活動が行き過ぎていないか、政教分離の原則に抵触していないかを、私たち市民が継続的に注視していくことが大切です。

神社は地域の祭りや信仰の場であり続けています。しかし同時に、その背後には政治との複雑な関係があることも、現実として受け止めておく必要があるでしょう。