最終更新日 2025年12月26日 by nfobiz

「人手不足が深刻だ。そろそろウチもDXを考えないといけないな…」
「付き合いのある業者に、良さそうなシステムを提案されたから任せてみようか」

建設業界の経営者であれば、一度はこう考えたことがあるのではないでしょうか。
しかし、その「丸投げ」が、あなたの会社の未来を危険に晒す大きな落とし穴になるかもしれません。

建設DXは、単なるITツールの導入ではありません。
それは、会社の業務プロセス、組織文化、そしてビジネスモデルそのものを変革する「経営改革」です。
本記事では、なぜ建設DXの丸投げが危険なのか、そして経営者が自ら旗を振ってDXを成功させるために知っておくべき「鉄則」を、最新の業界動向を交えながら徹底的に解説します。

なぜ今、建設業界でDXが急務なのか?

「DXの重要性は分かっている」という方も、まずは業界全体が直面する待ったなしの現状を再確認しましょう。
建設DXはもはや選択肢ではなく、企業の存続をかけた必須戦略となっています。

深刻化する人手不足と「2025年問題」

建設業界は、かねてより高齢化と若者の担い手不足に悩まされてきました。
国土交通省の報告によると、建設業就業者は55歳以上が約36.6%を占める一方、29歳以下は約11.6%に留まっています。

さらに追い打ちをかけるのが「2025年問題」です。
これは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、労働人口が急激に減少する問題です。 建設業界では、熟練技術者たちの大量退職が目前に迫っており、技術継承が断絶する危機に瀕しています。 このままでは、受注したくても現場を動かす職人がいない、という事態が現実のものとなります。

働き方改革関連法と「2024年問題」のインパクト

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、長時間労働の是正が法的に義務付けられました。
これがいわゆる「2024年問題」です。
この規制に対応できなければ、工期の遅延や受注機会の損失に直結するだけでなく、罰則の対象にもなり得ます。

従来の「人海戦術」や「長時間労働」に頼った経営モデルは、もはや通用しません。
限られた人員と時間の中で生産性を向上させるためには、デジタル技術を活用した業務プロセスの抜本的な見直しが不可欠なのです。

国土交通省が推進する「i-Construction」とBIM/CIM原則適用

国も建設業界の生産性向上を強力に後押ししています。
国土交通省は、ICT技術を全面的に活用する「i-Construction」を推進しており、2025年度までに建設現場の生産性を2割向上させる目標を掲げていました。 さらに、これを加速させる「i-Construction 2.0」では、2040年度までに建設現場の省人化を最低3割達成することを目指しています。

その中核をなすのが「BIM/CIM(ビム/シム)」です。
BIM/CIMとは、計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても情報を充実させながら活用していく仕組みです。 国土交通省は、2025年度からすべての公共事業においてBIM/CIMを原則適用する方針を示しており、これに対応できない企業は公共工事の受注が困難になる可能性があります。

BIM/CIMとは?
Building / Construction Information Modeling, Management の略称。3次元モデルに関連情報(部材の仕様、コスト、管理情報など)を付加し、建築・土木のプロセス全体でデータを活用する仕組み。

これらの外部環境の変化は、もはや一過性のものではありません。
DXに取り組むか否かが、企業の競争力、ひいては存続そのものを左右する時代に突入したのです。

危険!建設DXの「丸投げ」が失敗を招く3つの理由

「それなら、専門のITベンダーに任せてしまえばいい」と考えるのは早計です。
経営者が主体的に関与しない「丸投げDX」は、ほぼ確実に失敗します。
その典型的な理由を3つ解説します。

理由1:自社の経営課題に合わない高額なシステムが導入される

ITベンダーはツールの専門家ですが、あなたの会社の経営課題の専門家ではありません。
経営者が自社の課題を明確にせず、「業務を効率化したい」といった曖昧な要望だけを伝えて丸投げしてしまうと、ベンダーは自社が売りたい高機能・高価格なシステムを提案しがちです。

結果として、自社の業務フローに合わない、あるいは現場では使いこなせないオーバースペックなツールが導入され、多額の投資が無駄になってしまうケースが後を絶ちません。

理由2:現場の従業員がついていけず、形骸化する

DXの成否を分けるのは、現場で働く従業員がツールを使いこなせるかどうかです。
経営トップが現場の意見を聞かずに導入を決定し、「会社が決めたから使いなさい」とトップダウンで押し付けると、従業員は必ず抵抗します。

  • 「新しいことを覚えるのが面倒だ」
  • 「今のやり方で問題ない」
  • 「本当にこのツールで楽になるのか?」

こうした現場の不安や不満を解消しないままでは、せっかく導入したシステムも一部の社員しか使わず、結局は従来の紙やExcelでの業務に戻ってしまう「形骸化」を招きます。

理由3:データが活用されず、費用対効果が見合わない

建設DXの真の価値は、単なる業務効率化に留まりません。
ツールを通じて蓄積されたデータを分析し、経営判断に活かすことで、新たな価値を創造することにあります。

しかし、丸投げDXでは「ツールを導入すること」が目的化してしまいがちです。 どのようなデータを収集し、それをどう経営に活かすのかという視点がなければ、データはただ蓄積されるだけで宝の持ち腐れとなります。
これでは、投資対効果(ROI)を正しく評価することもできず、DXへの取り組みが継続しません。

【社長の仕事】建設DXを成功に導く5つの鉄則

では、建設DXを成功させるために、経営者は何をすべきなのでしょうか。
外部の専門家の力を借りることは重要ですが、あくまで主体は自社、そして経営者自身です。
ここでは、社長が必ず押さえるべき「5つの鉄則」を解説します。

鉄則1:経営トップがDXの目的とビジョンを明確に言語化する

まず、社長自身が「なぜDXをやるのか」「DXを通じて会社をどう変えたいのか」を具体的に言語化し、全社員に繰り返し伝えることが最も重要です。

悪い例:
「業界の流れだからDXをやる。みんなで協力して業務を効率化してくれ」

良い例:
「5年後、若手社員が定着し、全員が残業時間20%削減を実現するためにDXを推進する。まずは、現場の写真管理と日報作成の手間を半減させることから始めよう。これにより生まれた時間で、技術の習得や顧客との対話に集中できる会社を目指す」

目的が明確であれば、導入すべきツールもおのずと絞り込まれます。
そして、社員も「自分たちの働き方を良くするための取り組みだ」と認識し、DXを「自分ごと」として捉えるようになります。

鉄則2:現場の課題を徹底的にヒアリングし、巻き込む

DXの主役は現場です。
社長や管理職が「これが課題だろう」と決めつけるのではなく、実際に業務を行っている職人や現場監督、事務員の声に徹底的に耳を傾けてください。

  • 「毎日、事務所に戻ってからの日報作成に2時間かかっている」
  • 「最新の図面がどれか分からなくなり、手戻りが発生した」
  • 「電話やFAXでのやり取りが多く、言った言わない問題が頻発する」

こうした現場のリアルな「困りごと」こそが、DXで解決すべき課題です。
課題の洗い出しからツールの選定、試用(トライアル)の段階まで現場のキーマンを巻き込むことで、当事者意識が生まれ、導入後の定着がスムーズに進みます。

鉄則3:「スモールスタート」で成功体験を積み重ねる

いきなり全社的に大規模なシステムを導入しようとすると、失敗のリスクが高まります。
特に中小企業においては、限られた予算の中で効果を最大化するためにも「スモールスタート」が鉄則です。

まずは、最も課題が大きく、かつ効果が出やすい業務を一つに絞り込み、比較的安価なクラウドサービスなどから試してみましょう。

スモールスタートの例

  1. 課題: 現場と事務所の情報共有が遅く、非効率。
  2. 対象業務: 写真管理と日報作成に絞る。
  3. ツール: スマートフォンで完結する施工管理アプリを1つの現場で試験導入。
  4. 効果測定: 事務作業の時間がどれだけ削減されたかを測定。
  5. 展開: 効果が確認できたら、他の現場にも横展開する。

小さな成功体験を積み重ねることで、社員のITツールへの抵抗感が薄れ、「やればできる」「もっと便利になる」というポジティブな文化が醸成されます。

鉄則4:DX推進チームを組織し、責任と権限を与える

社長が一人で全てを背負う必要はありません。
社内にDXを推進する専門チームを組織し、リーダーを任命しましょう。
リーダーには、ITに詳しい若手社員だけでなく、業務全体を理解しているベテラン社員も加えることが理想的です。

重要なのは、このチームに「責任」と同時に「権限」を与えることです。
予算の執行権限や、業務プロセスの変更に関する決定権など、チームが主体的に動ける環境を整えることが、スピーディーなDX推進に繋がります。

こうした専門チームの活動を支えるのは、会社全体の組織文化です。
例えば、建設業界のDXを力強く推進するブラニューは、ブラニューが掲げる独自のカルチャーを公開しており、変革を担う人材が育つ土壌づくりの重要性を示唆しています。

鉄則5:IT導入補助金などを賢く活用し、投資リスクを軽減する

DXには投資が伴いますが、国や自治体は中小企業のIT導入を支援する様々な補助金制度を用意しています。
これらを活用しない手はありません。

代表的なものが「IT導入補助金」です。
これは、中小企業が認定されたITツールを導入する際に、費用の一部を国が補助してくれる制度です。 ソフトウェア購入費やクラウド利用料などが対象となり、申請枠によってはPCやタブレットなどのハードウェア購入費も補助対象となる場合があります。

補助金の申請には事業計画の策定などが必要ですが、ITベンダーが申請をサポートしてくれる場合も多いです。
こうした制度を賢く活用し、初期投資の負担を軽減しながらDXの一歩を踏み出しましょう。

目的別に見る建設DXの具体的なツールと活用例

建設DXと一言で言っても、そのツールは多岐にわたります。
自社の目的に合わせて、どのようなツールがあるのかを把握しておきましょう。

目的具体的なツール主な機能・活用例
情報共有・コミュニケーション施工管理アプリ、ビジネスチャット・スマホで撮影した写真を自動で整理・共有
・リアルタイムでの図面共有、チャットでの指示
・日報や各種報告書のペーパーレス化
業務効率化勤怠・労務管理システム、電子契約サービス・スマホやICカードで出退勤を打刻、労働時間を自動集計
・注文書や請書などの契約をオンラインで完結
・請求書や見積書の作成・管理
生産性向上BIM/CIM、ドローン、ICT建機・3Dモデルで設計・施工の不整合を事前にチェック
・ドローンによる測量や進捗状況の空撮
・GPSやセンサーで自動制御されるICT建機による施工
安全管理遠隔臨場システム、ウェアラブルカメラ・事務所から現場の状況をリアルタイムで確認・指示
・作業員のヘルメットに装着したカメラで危険箇所を共有
・AIによる危険予知、ヒヤリハット情報のデータ化

これらのツールは、単体で導入するだけでなく、連携させることでさらに大きな効果を発揮します。
例えば、施工管理アプリで管理している工程情報と、勤怠管理システムの労務データを連携させ、プロジェクトごとの利益をリアルタイムで見える化するといった活用が可能です。

建設DXの成功事例と失敗事例から学ぶ

最後に、DXの具体的なイメージを掴むために、成功事例と失敗事例を見ていきましょう。

成功事例:ビジョン共有と現場主導で生産性20%向上

中堅建設会社のA社は、社長が「技術者が本来の仕事に集中できる環境を作る」という明確なビジョンを提示。
各現場から若手とベテランを集めたDX推進チームを結成し、まずは「写真管理」と「日報作成」の課題解決に絞って複数の施工管理アプリを試験導入しました。

現場からのフィードバックを基に、最も操作がシンプルでサポート体制が手厚いツールを選定。
導入後、社長自らが各現場を回り、導入の目的とメリットを丁寧に説明した結果、全社的な活用が定着。
結果として、現場監督の残業時間を月平均30時間削減し、会社全体の生産性を20%向上させることに成功しました。

失敗事例:高機能ツールを導入するも使われず頓挫

B社では、社長がトップダウンで多機能な統合管理システムを導入。
しかし、現場への事前説明が不十分だったため、「操作が複雑で覚えられない」「今のやり方の方が早い」といった反発が続出。

導入後の研修も一度きりで、フォロー体制もなかったため、次第にシステムは使われなくなりました。
結局、高額なライセンス費用だけを払い続けることになり、DXプロジェクトは1年で頓挫。
現場には「DXは面倒なもの」というネガティブなイメージだけが残ってしまいました。

まとめ|建設DXは経営改革そのもの。社長が自ら舵を取れ

建設DXは、IT部門や外部ベンダーに任せておけばよいというものでは決してありません。
それは、人手不足、働き方改革、技術継承といった、会社が抱える根深い経営課題にメスを入れる「経営改革」そのものです。

だからこそ、経営者である社長が自ら強いリーダーシップを発揮し、明確なビジョンを示し、現場と対話し、時には痛みを伴う変革の決断を下す必要があります。

「丸投げ」という安易な道を選ぶのではなく、この記事で紹介した「5つの鉄則」を胸に、自社の未来を切り拓くためのDXの舵を、社長自らの手で握ってください。
その一歩が、10年後、20年後も社会に必要とされ、社員が誇りを持って働ける会社を作るための礎となるはずです。